精神の<北>へとは

プロジェクト趣旨

 

「地球の北方に住む人々には、国や民族の違いを超えて、何か共通の精神性があるのではないか?」
東日本大震災の前年、福島県生まれの私がフィンランド北部のラップランド地方を旅したとき、北欧の先住民族サーミ人と東北人の持つ、自然環境と深く結びついた精神性や、被征服の歴史などの類似に気づき、このように直感しました。アートプロジェクト「精神の〈北〉へ」は、この探究心を持って、東北地方と世界の北方のアーティストを要とする交流により、北方人同士や北を志向する人に共通する精神「北方的精神」を探り、地球規模の対話で、新たな「北方論」を織り継いで行くことを目指しています。

開始のきっかけは、東日本大震災です。地震と津波と原発事故によって東北がえぐられたあの時、あらわになったのは「東北の根っこ、真の姿は未だに解明されていない」という現実でした。この災害で多くを失った人々にとって必要なものとは、長い歴史に渡って他者から付加されたものではない、東北人自身が見出していく東北人のアイデンティティではないでしょうか。当プロジェクトの活動を通して「東北人とは何か」を見出し、精神的な回復の応援となることを願い、2011年から企画を公開、2013年より交流活動をスタートしました。

活動方法として、1)「地域性の探求とグローバルな視点を結ぶ交流」2)「美術と他分野との知と感性の交流」を重ね合わせて行なっています。アーティストが滞在活動する福島県会津地方や訪問する被災沿岸地域において、環境や人々との交流から感受したことを作品化し、蔵屋敷や元中学校校舎、美術館などで開催を重ねてきました。それらは、互いの表現の共振にとどまりません。アーティストと他分野の専門家との交流や公開ディスカッションを通して、自然観や精神性、アイデンティティを手繰り寄せ、東北人と北欧人との共通性や差異を他分野の視点も織り交ぜて検証し、民族やジャンルを超えた理解と共感に至っています。

これまでの活動で見出した「東北が内包する精神性」とは、例えば、かつて蝦夷(えみし)と呼ばれた東北の先住民の精神に宿り、鹿踊りや奥州平泉の中尊寺建立供養願文に込められた鎮魂の祈りや、宮沢賢治の世界観にも通底する、「眼に見えない聖なるものへの畏敬」「森羅万象への分け隔てのない眼差し」「動物や森や宇宙とも融和する原初性」が感じられるものです。
それは東北人のみならず、アイヌ民族や世界の北方民族にも見出されます。さらには地域に限らず、北を志向する人の内にもあるのかもしれません。「精神の〈北〉へ」は、そのような「北方的精神」の探求をさらに進めていきます。

 多様な風土と豊かな伝承を残す福島県会津地方を活動拠点に、アーティストの滞在交流活動や展覧会、様々な研究分野のなかに〈北〉なるものを知るシンポジウム、被災者の方々との対話、それらのアーカイブとして記録集の発行などを実施しています。
滞在を共にする北方同士のアーティストたちは、会津地方に出会い、人々と対話し地域のものごとを検証することで、その固有性や他民族との共通性を発見するでしょう。それは地域の再認識であり、新たな視点と意義が加えられます。作品は、地域や人とアーティストとのこのような共振から生まれます。

開催ごとの表現、学び、人のつながりは一過性ではなく、蓄積される資源となります。福島から発信するこの活動は、共振する世界の北方人のネットワークの要となって、新たな活動を生みだすことを目指していきます。
このような交流によって見出される“世界の中の東北”というアイデンティティが東北人としての誇りにつながることを期して、この活動の目的としています。

丸山芳子
美術家・「精神の〈北〉へ」実行委員会委員長

実行委員会

五十嵐 恵太・猪俣 まさえ・金親 丈史・黒田 綾子・阪下 昭二郎・生江 敬久・馬場 由紀子・蛭川 靖弘・星 宏一・丸山 常生・丸山 芳子 ・齋藤 智・武藤 弘毅・矢部 佳宏

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