概要
東北が本来内包していた豊かな精神性とは、例えば、かつて蝦夷(えみし)と呼ばれた東北の先住民の精神に宿り、鹿踊りや奥州平泉の中尊寺建立供養願文に込められた鎮魂の祈りや、宮沢賢治の世界観にも通底する、「眼に見えない聖なるものへの畏敬」「森羅万象への分け隔てのない眼差し」「動物や森や宇宙とも融和する原初性」が感じられるものです。それは、東北のみならず、アイヌ民族や世界の北方民族、さらには地域に限らず、人々の内にある「北方的精神」と呼べるでしょう。
2017年は、福島と東京でのひとつながりの滞在活動を行ないました。山間地域である西会津町での森や山との交感は、北方的精神性に包まれるような体験です。東北と東京、日本と北欧という対比的な土地と環境を認識し、理解を深める交流から表現が生み出されます。
アマンダ・ビルバリ(スウェーデン)と丸山芳子(福島県生まれ)の交流活動を軸に、東北に縁のある日本人アーティストや研究者、これまでに参加した北欧のアーティストの作品も加え、「精神の〈北〉へ」の世界観を伝えます。
アーティスト プロフィール
アマンダ・ビルバリ Amanda BILLBERG
https://vimeo.com/user9062427/videos
振り付け師、ダンサー、アーティスト。コンテンポラリーダンスの学位を持ち、舞台やサイトスペシフィックなダンスを創作する。ドイツ、スウェーデン、フィンランド、フランス、ポルトガル、アイスランドなど、世界各地において、音、劇場、ビジュアルアートや映像などの表現と関わりを持って表現する。
2016「ALLX」スウェーデン、「Falling in Busan」韓国、2014「Obstruction Construction」スウェーデン
丸山芳子 MARUYAMA Yoshiko
福島県生まれ、東京都在住
http://maruyamayoshiko.com/archive/
美術家。多様な民族背景の人々との交流を通して、人の営みや人間性に関心を向け、差異を越えた人間の本質とは何かを探るインスタレーションや絵画を制作。プロジェクト「精神の〈北〉へ」を企画・主導する。
2015-16「Fresh Winds」(アイスランド)、2013「ギャップ・ダイナミクス」板橋区立美術館(東京)、2009「Rain Meets Sun」M.K.チュルリョーニス国立美術館(リトアニア)、2009「はじめる視点」福島県立博物館(福島)
丸山 常生 MARUYAMA Tokio
東京都生まれ、在住
http://archive.maruyamatokio.com
美術家・パフォーマンスアーティスト。1979年より造形的空間と身体的行為を統合した「インスタラクション」と称するアートワークを続ける。人の活動や自然現象の「痕跡=記憶」をあぶり出し、私たちの「生きる場」の再編成を目論む。
2015「芸術の絆 」上海梧桐美術館(上海)、2015「被爆70年を考える現代美術展 長崎歴史文化博物館(長崎)、2013「ギャップ・ダイナミクス」板橋区立美術館(東京)、2013「X-Border Art Biennial」Arktikm(フィンランド)
石倉 敏明 ISHIKURA Toshiaki
東京都生まれ、秋田県在住
人類学者。1997年よりダージリン、シッキム、カトマンドゥ、東北日本各地で聖者(生き神)や山岳信仰、「山の神」神話調査をおこなう。環太平洋の比較神話学に基づき、神話集、論考等を発表。
多摩美術大学芸術人類学研究所助手を経て、現在秋田公立美術大学准教授。明治大学野生の科学研究所研究員。共著に『野生めぐり』『人と動物の人類学』『道具の足跡』『折形デザイン研究所の新・包結図説』など。
千葉奈穂子 CHIBA Naoko
岩手県生まれ、山形県在住
写真家。19世紀写真技法「サイアノタイプ」で手漉和紙にプリントする。時代を経ても変わらない東北を撮り続け、私達の存在が社会的背景や歴史の中からどう生まれてきたのかを問う。
2016「普遍的な風景」国際芸術センター青森(青森)、2015「ほくほく東北 アートでつなぐ、対話が芽吹く」はじまりの美術館(福島)、2013「N.E.blood21 Vol.46 千葉奈穂子展」リアス・アーク美術館(宮城)
田附 勝 TATSUKI Masaru
富山県生まれ、東京都在住
http://tatsukimasaru.com
写真家。2007年、デコトラとドライバーのポートレートを9年にわたり撮影した写真集『DECOTORA』(リトルモア)を刊行。2006年より東北地方に通い、東北の人・文化・自然と深く交わりながら撮影を続ける。2011年写真集『東北』(リトルモア)を刊行、同作で第37回木村伊兵衛写真賞を受賞。写真集『その血はまだ赤い』(SLANT、2011年)、『KURAGARI』(SUPER BOOKS、2013年)、『おわり。』(SUPER BOOKS、2014年)、『魚人』(T&M Projects、2015年)。
高島 正志 TAKASHIMA Masashi
福島県生まれ、在住
ドラマー・エレクトロニクス奏者・作曲家。関西や関東を拠点とし、現在まで多彩な演奏家と活動。場所と演奏家との関係性を探る即興演奏と譜面による指示から生まれる作曲を探求。会津地方では小泉八雲「怪談」、歌を主軸に置いた「アミ・モノ そこにあっただけの庭」、ベルギーのクラリネット奏者ヨアヒム・べデンホーストとのデュオ「始原の断片」を企画・主催し、演奏。「Holon/Drone」「ASTROCYTE」のCDがある。
ヴィグディス・ハウグトゥロ Vigdis HAUGTRØ
ノルウェイ生まれ
http://vigdishaugtroe.no
美術家・パフォーマンスアーティスト。多様なジャンル、形式、素材で表現する。自然環境と人間との交感や相互作用を試み、それを理解し、語り合うためのインスタレーションや絵画を制作する。
2016 [Grønn Sofa] トロンハイム市より委託制作、2012 [Om, Krets]エネルギー企業より委託制作、2016 [Solsang] 個展 Gallery LevArt, Levanger、ノルウェイ。
ヘレナ・ユンティラ Helena JUNTTILA
フィンランド生まれ
http://www.helenajunttila.net
画家。フィンランド北部のラップランド地方で暮らし、独自の神話を描く絵画は、象徴、潜在意識、夢、動物との強い結びつきと自己考察に特徴づけられる。地域性から生まれて普遍性に到達し、フィンランドを代表する画家のひとりである。
Finland’s National Museum Ateneum、Rovaniemi Art Museumなど、国内外多数の美術館で開催。
Vol.6 かすかな共振をとらえて :福島
会津地方の山間部である西会津町に滞在し、この地方にある精神性を読み解きます。ここで感受するものを作品にとりこみ、コラボレーションで表現します。
■滞在活動・公開制作:
2017年5月18日~5月28日
■イベント開催:
2017年5月27日(土) 14:00-20:00
会場:西会津国際芸術村(福島県耶麻郡西会津町新郷大字笹川字上の原道上5752)
アーティスト・研究者:アマンダ・ビルバリ/丸山芳子/高島正志/丸山常生/石倉敏明
【プログラム】
・北欧の先住民族サーミを知るドキュメンタリー上映(共催:スノーコレクティブ)
題名:「サーミ・ニエイダ・ヨイク」リセロッツ・ヴァイステッツ監督
・西会津の味の試食会
佐藤ミヨ子さん(みちのく山菜の宿 茶屋)料理5品
小野木麗子さん(ブックカフェ石竹花)スウィーツ2品
・展示・公演・講演
インスタレーション+映像+ダンス+アートパフォーマンス+サウンドのコラボレーション
人類学の講演「宇宙論とフードスケープ」石倉敏明
Vol.7 かすかな共振をとらえて :東京
ひとつの広大な展示空間が、民族やジャンルの差異を越えた共振で満たされ、東北や北欧の森のように観客を包みます。それは分断化され不寛容が強まりつつある現代社会に対する、ささやかな変革の試みであり、「精神の〈北〉へ」の世界観でもあります。
■展覧会:(第6回都美セレクション グループ展)
2017年6月9日~18日 9:30-17:30(金曜日は20:00まで)
会場:東京都美術館 ギャラリーA(東京都台東区上野公園8-36)
アーティスト・研究者:アマンダ・ビルバリ/丸山芳子/千葉奈穂子/丸山常生/石倉敏明/田附勝/高島正志/ヴィグディス・ハウグトゥロ/ヘレナ・ユンティラ
■関連イベント:
・講演:石倉敏明「東北に生きる造形思考」
6/10(土)14:00~16:00
・公演:アマンダ・ビルバリ(ダンス)・丸山常生(パフォーマンス)
6/11(日)14:00~15:30・6/16(金)17:30~19:00・6/17(土)14:00~15:30
・ギャラリートーク(プロジェクト紹介、アーティストトーク)
6/18(日)14:00~15:30
(photo: Chiba Naoko)
共催:西会津国際芸術村、東京都美術館(公益財団法人東京都歴史文化財団)
助成:公益財団法人朝日新聞文化財団、西会津国際芸術村 福島特定原子力施設地域復興交付事業、スカンジナビア・ニッポン ササカワ財団、The Swedish Arts Grants Committeé、Frame Contemporary Art Finland
後援:西会津町、スウェーデン大使館
協力:フィンランドセンター(フィンランド大使館)、スノーコレクティブ、中野未亜、Su Grierson、studio mar、加藤英二、山川亜古、大野徹人、横手ありさ、Joachim Badenhorst、設営・開催協力のみなさま、他